人は誰しも年をとり、老人となることに抗うことはできません。
爺さん、婆さんと呼ばれるのを拒むのはみっともない気がして、いつしか老人となることを受容するようになります。
これを自らの老いを自覚する老成自覚と呼びます。心も体も自然に老いて行って、老人になることを受容することは大切です。
サクセスフル・エージング(Successful Aging)として、心身ともに統合力を発揮するための知恵なのかもしれません。
高齢になると喪失を多く経験します。友達が先立ち、配偶者に先立たれ、自身も健康を損ねて自由が効かなくなります。
にも拘らず、心理的には幸福感に包まれる時期だといわれます。
長生きするほど幸福感が増すことを、エイジング・パラドックス(Aging Paradox)と言います。
人生はまだまだ無限の時間があると認識しているときは、人は情報を集め、自分の世界を広げ、社会関係を求めることへの動機づけがたかまります。しかし、人生に残された時間が限られていると認識すると、情報や金銭的なものへの執着が低下し、逆に情動的な満足を求めるような動機づけが高まります。そして既存の社会関係を深め、豊かな人生を味わおうとするようになります。このような加齢による動機づけの変化によって、高齢期にもウェルビーイングは安定している傾向がある。(Aging Paradoxは、carstensen,1995 の社会情動的選択性理論で説明されました。)
人間は、幼児期と終末期が一番幸せだと言います。 これをAshton Applewhiteは「幸せのUカーブ」と言ってます。
収入が何だ!豪邸が何だ!美貌が何だ!学歴が何だ!そして健康を害してもそれが何だ!といった気分。
健康寿命が尽き、身体的機能や認知機能が低下したとしても、それに打ちひしがれるのではなく、良いことや変わらぬことに意識を向けて行くことができます。
ありがたく、幸せに感じることで、人は心理的に適応していくのかもしれません。言い換えれば、生涯を通して人は主体的で能動的に適応してゆけるものなのです。
- よいことがあると、他の人のおかげだと思う。
周りの人の支えがあるからこそ私は生きていける。- ひとりで過ごすのはつまらない。(反転項目)
ひとりでいるのも悪くない。- 私の気持ちは昔と今を行ったり来たりしている。もう死んでもいいという気持ちと、もう少し生きていたいという気持ちが同居している。
- 生かされていると感じることがある、ご先祖様とのつながりを強く感じる。
- つい見栄を張ってしまう。(反転項目)
過去のことでまだこだわっていることがある。(反転項目)- 振り返ってみると「自分はよくやってきた」と思う。自分の人生は意義のあるものだったと思う。
- 人の気持ちがよくわかるようになった。
昔より思いやりが深くなったと思う。- できないことがあってもくよくよしない。細かいことが気にならなくなった。
生涯発達心理学では、成長も老化も「発達」として捉えます。
児童青年期(First age)、親から独立して社会的責任を担う成人期(Second age)、社会から引退し年金生活となる時期(third age)その次に来るのが超高齢期(fourth age)と言われています。
一般に超高齢期(fourth age)は85歳前後からの世代だとされています。最近、超高齢期の方が多くなって関心を集めています。
故森毅先生の「人生三回説」というのに共鳴し、老年の自立として第三の人生、自由人として振る舞うつもりでしたが、超高齢期の第四の人生が待っていました。
発達心理学では、バルテスによる生涯学習の獲得・喪失モデルが有名です。発達を心身の形態と機能に関する獲得(Gain)と喪失(Loss)の相互作用によって進行すると捉え、各段階のモデルの頭文字をとってSOC理論(Lossbased Selection, Optimization, Compensation)即ち「補償を伴う選択的最適化」といってます。
難しいのでよく引き合いに出される事例を紹介します。
80歳の著名なピアニスト、ルビンシュタインに「どうすれば、いつまでも素晴らしいピアニストでいられるのか?」質問し、その回答を分析した有名な事例です。
- Lossbased Selection(選択):演奏する曲のレパートリーを減らす。
- Optimization(適正化):少ないレパートリーに絞って、その練習の機会を増やす。
- Compensation(補償):指の動きのスピード低下を隠すためにテンポに変化をつける。
年をとると、社会的な人との繋り、精神性(Spirituality)、幸福観、宗教観などが楽天的気質にとって重要になってきます。
昔「人生50年」と言ってました。今では人生50年は折り返し地点です。
ミリオネア(100歳以上)となっても珍しくなくなりました。
これに伴って超高齢期の研究も進んできました。
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