マーラー「大地の歌」

この記事は3年以上前に投稿された古いものです。

この歌を知ったのは、【夜と霧 新版】…それでも生に然りと言うに書いた通り、【夜と霧 新版】(ヴィクトル・フランクル Viktor E. Frankl著、池田香代子訳)を読んだときに知りました。

Gustav Mahler作曲の交響曲“大地”の「大地の哀愁にそそぐ酒の歌(Das Trinklied Vom Jammer Der Erde)」はフランクルが好きだった曲だったそうです。

翻訳者:霜山徳爾は、あとがきに「それは私もきわめて好んでいる曲であった。偶然の一致を喜んだ彼と私は、暗い夜道で、迷惑もかからないので一緒に歌うことになった。」と書いています。

久しぶりにマーラー「大地の歌」を聞きました。そこで、歌詞を知りたくなってマーラー「大地の歌」:原詩からの変遷というサイトを見つけました。

なんと、マーラー「大地の歌」は中国の漢詩 → サン=ドニSaint-Denys(仏語) → ハイルマンHans Heilmann(独) → べトゲHans Bethge(独) → マーラー(独) へと変遷して来ているものだったのです。

例えば、最初のDas Trinklied Vom Jammer Der Erde は、李白の「悲歌行」が原詩で、サン=ドニ:La chanson du chagrin となり、ハイルマン:Das Lied vom Kummer から、ベトゲ:Das Trinklied vom Jammer der Erde となり、マーラーの曲:Das Trinklied vom Jammer der Erde となったということです。

李白の「悲歌行」を原詩はこのようなものです。

悲來乎 悲しみ来たるかな
悲來乎 悲しみ来たるかな
主人有酒且莫斟 主人に酒が有るが、しばらく斟まないで
聽我一曲悲來吟 まず聴いてくれ、我が一曲、悲来の歌を吟じるのを
悲來不吟還不笑 悲しみが来たると吟ずることもまた笑うこともなく
天下無人知我心 天下には誰もいない、我が心を知る人は
君有數斗酒 君には数斗の酒が有る
我有三尺琴 我には三尺の琴が有る
琴鳴酒樂兩相得 琴が鳴り酒を楽しむ、両者そろって相い得れば
一杯不啻千鈞金 この一杯には千鈞もの金だってかなわない
悲來乎 悲しみ来たるかな
悲來乎 悲しみ来たるかな
天雖長地雖久 天は長いと雖も、地は久しいと雖も
金玉滿堂應不守 金や宝玉で満ちた堂を守り続けることはできない
富貴百年能幾何 富や貴位だって百年も能くしない、幾何のものか
死生一度人皆有 死も生もそれぞれ一度、人皆それが有る
孤猿坐啼墳上月 孤猿が座して啼く、墳上の月のもとで
且須一盡杯中酒 だからまず杯中の酒をのみ尽くすことさ

 


さて、マーラーの歌詞はどのようになっているのでしょうか?

Schon winkt der Wein in goldenen Pokalen, – はやくも手招きしている、酒が黄金の酒杯の中で、
Doch trinkt noch nicht! Erst sing ich euch ein Lied! だがまだ飲まないでくれ! まず歌おう私が君たちに一曲!
Das Lied vom Kummer soll euch in die Seele この歌は悲しみについてだが、君たちの心で
Auflachend klingen! Wenn der Kummer naht, 哄笑となって鳴り響け! その悲しみが近づくと、
So stirbt die Freude, der Gesang erstirbt, すると枯れてしまう喜びが、歌声が絶えてしまう、
Wüst liegen die Gemächer meiner Seele. 荒れ果てる、庭が、私の心の。
Dunkel ist das Leben, ist der Tod. 暗やみなのだ、生は、そして死は。
Dein Keller birgt des goldnen Weins die Fülle, 君の酒蔵は蓄えがある、黄金の酒がいっぱいだ、
Herr dieses Hauses, – ich besitze andres: この家のあるじよ、 私には別のものがある:
Hier diese lange Laute nenn ich mein! こちらにはこの長い琴、私のものだ!
Die Laute schlagen und die Gläser leeren, 琴をかき鳴らす、そして盃を乾す、
Das sind zwei Dinge, die zusammenpassen! これら二つはは、たがいに調和する!
Ein voller Becher Weins zur rechten Zeit なみなみと杯に酒がちょうどよい時に
Ist mehr wert als die Reiche dieser Erde. それはずっと価値がある、全王国よりも、この大地の。
Dunkel ist das Leben, ist der Tod. 暗やみなのだ、生は、そして死は。
Das Firmament blaut ewig, und die Erde 天空は青い、永遠に、そして大地は
Wird lange feststehn auf den alten Füßen, – ずっと揺るぎなくあるだろう、昔からの足元に、
Du aber, Mensch, wie lange lebst denn du? 君はだが、人間よ、どれだけ生きるのか、さて君よ?
Nicht hundert Jahre darfst du dich ergötzen 百年と許されていないのだ、君が楽しむことは
An all dem morschen Tande dieser Erde. すべて儚いがらくたで、この大地の。
Nur Ein Besitztum ist dir ganz gewiss: ただひとつの財産が君にははっきり明らかにある:
Das ist das Grab, das grinsende, am Ende. それは墓、ニヤニヤするもの、最後には。
Dunkel ist das Leben, ist der Tod. 暗やみなのだ、生は、そして死は。
Seht dort hinab! Im Mondschein auf den Gräbern 見ろ、そこを、下の方! 月明かりの中、墓の上に
Hockt eine wild-gespenstische Gestalt. うずくまる荒々しくも不気味な影。
Ein Affe ist es! Hört ihr, wie sein Heulen 猿だそれは! 聞こえるか、その叫びが
Hinausgellt in den süßen Duft des Abends? 鋭く響くのが、夕べの甘い香りの中で?
Jetzt nehmt den Wein! Jetzt ist es Zeit, Genossen! いまこそ手にとれ、酒を! いまこそその時だ、仲間よ!
Leert eure goldnen Becher bis zum Grund! 干してくれ黄金の杯を底まで!
Dunkel ist das Leben, ist der Tod. 暗やみなのだ、生は、そして死は。

 


どうしても、この歌を聞くと…それでも生に然りと言う、を思い出してしまう。