異次元の金融緩和策は、非常に剣呑けんのんな政策

この記事は3年以上前に投稿された古いものです。

前回のブログ「知れば知るほど剣呑けんのんなマネー膨張」の続きです。

そもそも国債って何でしょう? それは、国家の目的と財政から考えなくてはいけないようです。

国家の目的は「国民の安全・安心と財産や文化を守る」ことだとしましょう。
そのために、その時の環境に合った政策が必要になる訳で、インフレ時とデフレ時では経済政策は違ってきます。
企業にとって利益は存続の条件ですが、国家にとっては財政黒字が存続の条件ではありません。
だから国家には、通貨発行権があり、徴税権があるわけです。

「企業の借金」と「国の借金」は全く違います。
企業にとって借金(借入金)とは、手持ち資金を見ながら、必要なら借り入れをしてでも事業を維持・成長させて、生み出した利益・キャッシュフローで返済していきます。返済ができなくなれば、返済方法の変更や事業売却等々いろいろな方法があるにせよ、単純にいえば倒産です。

ところが、国の借金(国債)は、将来への「安全・安心と財産や文化守る」ための投資です。そのために通貨発行権があり、徴税権があるので、倒産はありえません。
もう少し厳密に考えるには、国家は、Nation(民間を含めた国家)、State(制度としての国家)、Government(政府)の3種類の違いを頭に入れておかないと整理できません。
国債を、Government(政府)の借金として、狭義に考えて整理しないといけません。

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2014年度末の時点での国債発行残高は885.2兆円(暫定)です。(2013年度末780兆円確定)
2015年度国家予算が96.3兆円ですから、年収の9倍以上の借金です。
企業だったら、とっくに倒産しています。

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国債の保有者の内訳を見てみると、民間銀行、保険・年金基金、その他金融機関(=日銀当座預金)、社会保障基金・地方自治体などで、全て国内の金融機関が保有しています。
政府Government の借金は、90%以上 国家Nation から借り入れているのです。
ここがギリシャのように、外国から借金しないで済んでいるところが全く違います。

ここで言いたいのは、政府Government と国家Nation とはイコールではないこと。
そして政府財政は、企業会計や家計とは全く違うということです。

メディア等で「国の借金何兆円、国民一人あたり何百万円」といった表現がなされますが、政府Government と国家Nation は、借り手と貸し手であって、これを混同しています。

また、財政健全化は国家の目的を果たし「続ける」ための手段であり、好景気によって国民に豊かさを提供し、税収を増やし、健全化を進める方法があることを忘れてはいけません。
企業の借金と同じだと、取り違えると問題は見えてきません。

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今、日本の国債問題は、赤字国債の発行残高が増え続けていること。その新規国債を日銀が買いまくっていることです。

左図の変化は、日銀の国債買い付けで、民間銀行(右図 青)から日銀(右図 緑)へ、移行していることを示しています。

加えて、日銀は上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)なども買っています。これも市場におカネを供給するためです。

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日本の国債の金利は世界最低水準です。10年もの国債で1%を切っています。右の財務省のデータによれば、加重平均した金利は1.15%です。
金利負担は随分軽くすむ環境にあります。
「国債金利が暴騰!」などという報道がありましたが、発行されている国債は90%以上固定金利ですので、投機で稼ごうとしているのでなければ、一喜一憂する必要はありません。
金利が低いため貸し手である我々からするとローリスク・ローリターンですが、国債はその国の中で一番の安全資産であることに変わりありません。

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さて、日銀の異次元金融緩和に話を戻しましょう。日銀が国債を大量に買付けたため、各民間銀行の日銀当座預金残高は急増しました。
この日銀当座預金を準備金として、更に貸し出しに回せるので、民間銀行の資金力は潤沢になります。
民間銀行にとって国債のまま持っているより、より高い金利先へ貸出すことが出きます。左図のような想定が考えられていたのですが、現在の実態がどうも掴めていないようです。
どうも良い貸出先がないので、日銀当座預金のまま眠らせているようです。これじゃ経済は活性化しませんね。

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しかし、日銀の異次元金融緩和が始まって丁度2年、現実には左のような評価(毎日新聞)です。当初、消費者物価指数はゼロ、円安、長期金利低下、GDP悪化などの情況をみると、日本経済が力強く回復している気配を感じません。

ある意味で大変なリスクを犯して、信用創出によって、莫大なおカネを投じたんですが、それでも活力を感じない(ビクともしない)結果となっています。
いくらお金が借りやすくても、投資に見合う事業がなければ、資金を借りる企業がいないということでしょうか?
一昨日、株価2万円の大台に載せたんで、今後の成り行きを見たいところですが、信用膨張によってつくられた今のマネタリーベースは、簡単にはもとに戻りません。

マネタリーベースが増えているわけですが、そのままでは日銀が金融機関から国債を買っただけですから、日銀当座預金に資金が滞留している限りは、景気対策にはなりません。そのお金を民間金融機関が引き出して、企業や個人に貸し出すなり、投資をするなりしない限り、景気は刺激されないのです。

ところが、逆にそのお金がどんどん貸し出されていき、使われ始めてしまったら、どうなるでしょうか。日本国内にあるモノや提供されているサービスの量が変わらないとしますと、お金の量が急に増えると、貨幣の価値が落ちます。
つまり、政府がコントロールできないほどのスピードでインフレが進む恐れがあるのではないかと思うのです。
信用膨張したおカネが有り余っているので、一旦インフレになると信じられない速さで、突き進んでしまいます。

今回の異次元金融緩和に、出口戦略が見えないという人がいますが、じつは出口は無いのではないかと思われます。もうかつての状態に戻れない、戻らないのです。
赤字国債を発行し続け、その国債を日銀が買い続ける状態を、これから暫く10年以上は続けざるを得ないでしょう。

右に転べば景気は刺激されず、左に転べばコントロール不能のインフレが起こる可能性がある。
異次元の金融緩和策は、非常に剣呑けんのんな政策であるという認識が必要です。
このような大胆な金融政策をやったことのある国はありませんから、何が起こるか誰にも予測できないのです。

日銀が保有する国債の量は、日銀券の発行残高を超えないという「日銀券ルール」がありました。しかしこれも無視されてしまいました。将に異次元の経済政策であります。

最後に、企業の寿命30年などと云われたことがあります。国家はその程度の寿命では困ります。
10年先、100年先、更にはその先を見据え、国家の目的「国民の安全・安心と財産や文化を守る」ための政策を打って欲しいと思います。

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