Wikiでは『静かな海と楽しい航海』と訳されてるゲーテの詩ですが、ゲーテ詩集(ゲーテ全集1潮出版 P.39)には『海の静寂、海路順風』とあり、こちらのほうが翻訳として優れていると思います。
このゲーテの詩をもとに、ベートーベンが作曲し1815年12月にウィーンで初演されました。後にゲーテに献呈され、その際次のような手紙が書き添えられたそうです。
海上の凪、成功した航海、この2つの詩のコントラストは音楽で表現するのに相応しいと私は考えました。私が付けたハーモニーが閣下(ゲーテ)の詩に適切であったかどうかを知る事ができれば幸いに存じます。
内容も詩的リズム、音の象徴性においても対照的な2作品です。
その後に、フェリックス・メンデルスゾーンも、1830年にローマで演奏会用序曲として作曲しています。
ベートーベンの作品から15年後のことです。ゲーテが亡くなる(1832年)、2年前に作曲されたものです。
ドイツ語(原文) | 日本語訳(山口四郎訳) |
Meeres Stille: Tiefe Stille herrscht im Wasser, Ohne Regung ruht das Meer, Und bekümmert sieht der Schiffer Glatte Fläche ringsumher. Keine Luft von keiner Seite! Todesstille fürchterlich! In der ungeheuern Weite Reget keine Welle sich. Glückliche Fahrt: |
海の静寂 : 深い静寂が水を領し 海は死んだように動かぬ とろりとした海原のただ中 水夫が憂しげに水を凝視ている そよとの風も吹かぬ! 恐ろしいばかりの死の静寂! 渺渺たる水の果て 一派のうねりも見えぬ 海路順風: 霧が晴れる 青空がのぞく 風神が 風袋の紐を解く 風が颯々と鳴る 水夫が勇み立つ 走る!走る! 船は潮をわけて走る 遠景がたちまち近づく 陸はすでに眼前にある! |
作詞されたのは、ゲーテがイタリア紀行(1786~1788年)から帰って7年後の1795年か、それより前に書かれたようです。
当時46才のゲーテは、イタリア紀行を回想して作詞したのでしょうか? 詩の内容から多分、地中海、特にシチリアへ渡る航海の思い出であろうとされています。
18世紀末からの19世紀初頭にかけてのヨーロッパは、面白い時代です。フランス革命、ナポレオン帝政、ゲーテ、ベートーベン、メンデルスゾーン、ブラームスなどなど、ロマン主義の開花期にあったのです。
ではベートーベンとメンデルスゾーン其々を比較しながら、聞いてもらうことにしましょう。