ベルリオーズの幻想交響曲

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フランスのベルリオーズ(Hector Berlioz,1803-1869年)といえば幻想交響曲(Symphonie fantastique)でしょう。 幻想狂想曲(rhapsody)といってもいい、一人よがりで狂おしいBerlioz自身の恋物語りです。

La Côte-Saint-André 
Berliozの出身地
La Côte-Saint-André

ベルリオーズの心の原風景は、フランス南部の田舎町  La Côte-Saint-Andréです。
町医者だった父の勧めでパリの医科大学に進学するものの、音楽への道を捨てきれず、20才の時(1823)父の反対を押し切ってパリ音楽院に入学してしまいます。

ハリエット・スミスソン(Henrietta Smithson)
ハリエット・スミスソン(Henrietta Smithson)

恋は突然やって来ます。オデオン座で公演していた『ハムレット』のヒロインハリエット スミスソン(Harriet Smithson)こそ その人です。売れっ子だったんです。
若き青年Berlioz(24才)が、Smithson(27才)に出会ってしまったところから幻想的な恋が始まってしまいます。

劇場へ通いつめ、頻繁に手紙を出します。売れっ子のSmithsonに振り向かれることもなく「あなたの一人相撲ですよ」とまで言われ、彼女はロンドンに帰ってしまいます。失恋です。
この失恋は、Smithsonへの恋心と憎悪を抱く複雑なものになりました。これが青年Berlioz 24才(1827年)の強烈で純粋な初恋だったという訳です。

この強烈な初恋を描いたこの曲は、時間軸に沿って心象風景を綴った物語なのです。

ぐにゃとして、つかみどころがない第1楽章「夢、情熱」(Rêveries, Passions)は、ムチャクチャ不安定な片思いの恋心をあらわしていきます。この感情は、おそらく現実的で打算的な女性には分からないでしょう。
第3楽章「野の風景」(Scène aux champs)では、振り向いてもくれないやるせなさとは裏腹に憎悪が加わっていきます。更に、そんな情けない自分に決別したくなる幻想に責められます。

そして第4楽章「断頭台への行進」(Marche au supplice)で、自殺を暗示するアヘンの服毒へと進みます。
最後に魔女の狂気として、第5楽章「魔女の夜宴の夢」(Songe d’une nuit du Sabbat)で、朦朧とした中で強烈な恋は、自暴自棄に近い狂想で閉じます。…ではサワリの第4楽章からお聞き下さい。

https://youtu.be/rQXtC6B3CKQ?t=37m30s

このYouTubeの演奏は、バーンスタイン(Leonard Bernstein)の指揮で、なかなかの名演奏です。
第4楽章から始まってますが、頭から聞きたい方はYouTubeに戻ってお聞き下さい。

後日談があります。この曲は、発表(1830年)された初演で、大成功を納めます。そして憧れのローマ賞を受賞します。
この頃、婚約していたマリー・モークとは破局を迎え、それがゆえに失意の人となって、自暴自棄になってしまいます。
ところがその後、何とSmithsonが『幻想交響曲』を聴きに来たのであります。あれから3年(1833年)二人は再会し、恋の炎は再燃します。そして、めでたく結婚へと至るのであります。
(ローマ賞を受賞して)脚光を浴びるようになると、女性(Smithson)の方から接近してくるものです。男性は純粋でバカだから、このあたりの女性の心理を読み解くことができないのです。

いい曲の裏には苦悩があり、失意があり、そして逆転のドラマがあります。

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