ジーン・ドライブ (Gene Drive)

遺伝子ドライブ即ち、ジーン・ドライブGene Driveとは、特定の遺伝子に偏った遺伝を誘発させ、集団全体の遺伝子構成を変更する技術です。
結果的に、人類にとって都合の悪い遺伝子を人為的に根絶する技術なのです。この発想自体は新しいものではなく、1940年代まで遡りますが、新しいゲノム編集の技術クリスパー(CRISPR/Cas9)の登場によって、いま急に現実味を帯びてきています。

Gene Driveではありませんが、「虫を放して虫を滅ぼす」技術があります。不妊虫放飼法Sterile Insect Techniqueと呼ばれるもので、X線照射によって不妊化した雄虫を野外に放出し、その地域にいる雌と交尾させ、孵化できない卵を産ませます。
こうして害虫駆除をする技術です。沖縄でウリミバエという害虫を駆除した成功例があります。今や全沖縄でウリミバエが駆除されたそうです。しかしウリミバエが地球上から完全に根絶したわけでありません。新たに不妊化していない雄虫を放てば、ウリミバエは増殖します。これがGene Driveとは違うところです。

さて、Gene Driveとはどんなものでしょう? まず、以下の衝撃的なVideoを見てもらいましょう。(12分15秒かかります)

一度では、聞き取り難いと思います。日本語訳を掲載しておきます。下の Video日本語字幕を読むをクリックして、じっくり読んで下さい。引用:TED Ideas worth spreading (Jennifer Kahn 講演)

Video日本語字幕を読む

これから遺伝子ドライブについて 話しますが まず簡単に 背景を説明しましょう 20年前 アンソニー・ジェームズという 生物学者が マラリアを媒介しない蚊を作る というアイデアに 取り付かれました。

素晴らしいアイデアですが まったく成功しませんでした 1つには マラリア耐性のある 蚊を作るのが 極めて難しいためでしたが 最後には 彼はやってのけました ほんの数年前のことです ある遺伝子を組み込むことで マラリア原虫が蚊の体内で 生きられないようにしたのです

ただこれにより 別の問題が持ち上がりました マラリア耐性のある蚊は できましたが それをどうやって マラリアを媒介する蚊と置き換えるのか? いくつか選択肢があります プランAは基本的に その新しい 遺伝子組み換えの蚊を 大量に育てて 野に放ち その遺伝子が受け継がれることを 期待するというものです 問題は これが うまくいくためには 天然の蚊の10倍の数の蚊を 放つ必要があるということです だから1万匹の 蚊がいる村なら 10万匹の蚊を 放つことになります お分かりになると思いますが これは住人にはあまり 歓迎されないやり方でした

(笑)

去年の1月 アンソニー・ジェームズ(James)は イーサン・ビア(Bier)という生物学者から メールを受け取りました ビアと その院生の ヴァレンティノ・ギャンツは 特定の遺伝形質が 受け継がれるだけでなく 極めて速やかに 広まるようにできる ツールを見出したというのです それが本当なら ジェームズが 20年間取り組んで来た問題が 解決することになります

彼らは試しに マラリア耐性遺伝子と 遺伝子ドライブという新しいツールを 組み込んだ蚊を 2匹作ってみました 遺伝子ドライブについては 後ほど説明します それから彼らは マラリア耐性遺伝子を 受け継いだ蚊の眼が 通常の白色ではなく 赤色になるように仕組みました これはどっちがどっちか 一目で分かるようにという 便宜のためです

そのマラリア耐性のある 赤目の蚊2匹を 普通の白目の蚊30匹が 入った箱に入れ 繁殖させました 2世代の後 孫が 3,800匹生まれました これは驚くところ ではありません 驚くのはここからです たった2匹の赤目の蚊と 30匹の白目の蚊で スタートしたら 子孫は ほとんどが白目になると 思うでしょう ところが ジェームズが 箱を開けてみると 3,800匹の蚊のすべてが 赤目だったのです

私がイーサン・ビアに この時のことを聞くと 彼はあまりに興奮して 電話の向こうで叫んでいたほどです というのも 赤目の蚊だけが できるというのは 生物学の基本中の基本である メンデル遺伝学に 反しているからです 簡単に説明しますが メンデル遺伝学によると オスとメスが交尾すると 子供はそれぞれの親から DNAの半分を受け継ぎます 元の蚊がaa型で 新しい蚊が マラリア耐性遺伝子Bを持つ aB型だとすると 4種の順列に従った 子供ができます aa型 aB型 aa型 Ba型 しかし遺伝子ドライブを使うと すべてがaB型になったのです 生物学的には あり得ないはずですが

どうして そうなったのでしょう? 第1に CRISPRという 遺伝子編集ツールが 2012年に登場したことが 挙げられます CRISPRについては 聞いたことのある人が多いと思うので ここでは簡単に CRISPRは 研究者が簡単に素早く正確に 遺伝子を 編集できるツールだと言っておきましょう 元々バクテリアの中に存在していた メカニズムを利用していて 基本的には DNAを切り取る ハサミとして機能する タンパク質と ゲノム上の好きな場所に ハサミを差し向けるための RNA分子からなっています 結果として得られるのは 遺伝子のワープロのようなものです 遺伝子をまるごと 取り出したり 埋め込んだりでき 遺伝子を1文字だけ 編集することさえできます しかも ほぼどんな種に 対しても使えます

遺伝子ドライブには元々2つの難問がある と言ったのを思い出してください 1つ目は マラリア耐性のある 蚊を作るのが 難しいということですが これはCRISPRのおかげで 基本的には解決しました もう1つは物流の問題です どうやって形質を 広めたらいいのか? 巧妙な方法が必要です

2年前 ハーバード大の生物学者 ケヴィン・エスヴェルト(Kevin Esvelt)は 対象の新しい遺伝子だけでなく カット&ペーストの機構も CRISPRに埋め込ませたら どうなるだろうと考えました 言い換えると CRISPR に自分自身も コピー&ペーストさせるということです 止まることを知らない遺伝子編集マシンが できることでしょう そしてそれが まさに起きたことでした エスヴェルトの作った CRISPR遺伝子ドライブは 形質が受け継がれることを 保証するだけでなく 生殖細胞に使われると 新しい遺伝子を すべての子の両方の染色体に 自動的にコピーするんです 一括置換のようなものです 科学用語で言うなら ヘテロ接合形質のホモ接合化です

これが意味するのは どういうことでしょう? 1つには 非常に強力であるとともに 懸念を感じる新しいツールを 私たちは手に入れた ということです これまでのところ 遺伝子ドライブが そんなに上手く機能していないことに むしろ安堵を感じます 生物の遺伝子を いじりまわすと 通常 進化的な適応度は 下がることになります だから生物学者は 特に心配することなく 突然変異のショウジョウバエを 作れます 何匹か逃げたところで 自然淘汰が後始末してくれます

遺伝子ドライブが 注目に値し 強力で 恐ろしくもあるのは それが もはや成り立たない ところです 与えた形質が 飛べない蚊のような 大きな進化的欠点を 持つのでない限り CRISPR遺伝子ドライブは その形質が 集団のすべての個体に行き渡るまで 容赦なく広まり続けます うまく働く遺伝子ドライブを作るのは 簡単ではありませんが ジェームズやエスヴェルトは 可能だと考えています

良い知らせは これが極めて素晴らしい ことへの扉を開くということです マラリアを運ぶ ハマダラカの ほんの1パーセントに マラリア耐性遺伝子ドライブを入れると 研究者の見積もりでは 1年で集団全体に広まることになります たった1年でマラリアを 撲滅できるかもしれないのです 実際的には そうできるまで 何年かかかるでしょうが 毎日千人もの子供が マラリアで死んでいるのを 1年でほとんど ゼロにできるのです 同じことが デング熱 チクングニア熱 黄熱にも言えます

もっとあります 侵略的外来種の排除 — たとえば北米の五大湖から アジア産のコイを駆逐したいなら オスだけが生まれるようにする 遺伝子ドライブを 放てばいいだけです 数世代の後にはメスがいなくなり コイは消え失せます 理論的には それによって 絶滅の危機に追いやられていた 何百種という在来種が 回復するでしょう

それが良い知らせですが 悪い知らせもあります 遺伝子ドライブは 極めて効果が高く 誤って放ってしまうと 生物種全体を変えてしまう危険があります それもごく速やかに アンソニー・ジェームズは 十分な予防措置を取っていました 生物学的封じ込めを施した 実験室内で蚊を繁殖させ アメリカにはいない種を 使っていました だから逃げ出したとしても つがう相手がいなくて ただ死に絶えるだけです しかしオスだけを生む遺伝子ドライブを 持つアジア産のコイが 何かの手違いで10匹ほど 五大湖からアジアにもたらされたとしたら アジアの天然のコイを 払拭してしまうかもしれません 現在の繋がり合った世界では ありそうにないこととは言えません そもそも侵略的外来種の問題があるのも そのためなんですから 魚はまだ良いとして 蚊やショウジョウバエだと 閉じ込めようがありません 国境だろうと海だろうと 越えてしまいます

別の悪い知らせは 遺伝子ドライブが 標的種の中に留まるとは 限らないことです 遺伝子流動のためです 近縁の種は 異種交配することが あるということです そうなると遺伝子ドライブが 種を越えて広まるかもしれません アジア産のコイから 他の種のコイへというように 遺伝子ドライブが 目の色のような形質を 広めるだけなら まだいいでしょう 実際 近い将来 すごく奇妙な ショウジョウバエの発生を目にする可能性は 少なからずあります 遺伝子ドライブが 種を抹殺するようデザインされていたなら とんでもない災厄に なりかねません

懸念すべき最後の点は 遺伝子組み換えして 遺伝子ドライブを組み込む技術というのは 基本的に世界のどの実験室でも できるようなものだということです 学部学生でもできるし 出来の良い高校生でも しかるべき設備があればできるでしょう

少し怖い気がしてきたんじゃ ないでしょうか

(笑)

面白いことに 私が話した科学者のほとんどは 遺伝子ドライブが 怖いとも 危険だとも 思っていないようでした ある部分では 彼らが 科学者なら 責任をもって 注意深くやるはずだと信じているためです

(笑)

これまでのところは 裏切られていません しかしまた 遺伝子ドライブには 制限もあります 1つには 有性生殖を行う種にしか 使えないということがあります だから ありがたいことに ウイルスやバクテリアを作るのには使えません また形質は 世代ごとにしか 広まりません 種全体を変えたり 抹殺したりといったことは 生殖周期がごく短い種でしか 実際には起きないでしょう 昆虫とか ネズミや魚のような小型脊椎動物などです ゾウや人間では 問題になるほど形質が広まるには 何世紀もかかるでしょう

また CRISPRを使おうと 本当に壊滅的な 形質を作り出すのは たやすくありません たとえばアメリカの農業に 打撃を与えるために 腐った果物でなく 普通の果物を食べる ショウジョウバエを 作ろうと思ったとします まず ハエが食べたいものを制御する 遺伝子を特定する 必要があります これだけでもかなり長期の 難しいプロジェクトになるでしょう それからハエの行動を 変えるために その遺伝子を変更する 必要がありますが これは さらに長期の 難しいプロジェクトになるでしょう それに うまくいかない 可能性もあります 行動を制御する遺伝子は 複雑なためです だからもしテロリストが 失敗する可能性のある 何年もかかる細心の 基礎研究に着手するか 単に爆弾で吹き飛ばすかを 選ぶとしたら たぶん後者を選ぶでしょう

ことに「リバーサル・ドライブ」と 呼ばれるものを作るのが 理論的には ごく簡単であることを 考えると なおさらです リバーサル・ドライブは 遺伝子ドライブの 引き起こした変化を上書きします だから遺伝子ドライブによる変化が 気に入らなければ それをなかったことにする 第2のドライブを放てばいいだけです 少なくとも理論的には

私たちは どういう地点に いるのでしょう? 今や私たちは種を丸ごと 変えてしまう力を手に入れました それはすべきことなのでしょうか? 我々は神になったのか? それは分かりませんが こうは言えます 第1に 非常に賢明な人々が 今も遺伝子ドライブを どう規制するか議論しています 同時に 他の非常に賢明な人々が 遺伝子ドライブが自主規制したり 数世代で減少に転じ消滅するといった 保護策を作ろうと 取り組んでいます これは素晴らしいことです それでも この技術については 対話が必要です 遺伝子ドライブの 性質を考えれば この対話は世界的なもので ある必要があります ケニアは使いたいけど タンザニアは使いたくなかったとしたら? 空を飛べる遺伝子ドライブを放つ判断は 誰が下すのでしょう?

私はこの問への答えを 持ち合わせていません 今 私たちに進める道は リスクと利益について 率直に話し合い 自らの選択に 責任を持つことでしょう この選択には 遺伝子ドライブを 使うという選択だけでなく 使わないという 選択もあります 人は 現状維持が 最も安全な選択だと 思う傾向があります しかし そうとは限りません 遺伝子ドライブにはリスクがあり 議論が必要ですが 一方で マラリアは現に存在し 毎日千人 殺し続けています それに対して 殺虫剤散布で対処するのは 両生類や鳥類を含む他の種に 多大なダメージを及ぼします

だからこの先何ヶ月かの間に 遺伝子ドライブについて耳にしたら — きっと耳にすることに なると思いますが そのことを 思い出してください 行動するのは 怖いかもしれませんが 行動しない方が悪い結果に なることも多いのです

(拍手)

赤血球内に感染している熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)のリング体(スケールは10μm)

マラリアは、マラリア原虫(P.falciparum)によって引き起こされる病気です。
マラリア原虫は脊椎動物の赤血球内に寄生してマラリアを引き起こす病原体で、ハマダラカなどの蚊を媒介として感染します。
毎年2億人の人が感染し、繰り返し起こる高熱に悩まされています。そして67万人の人が命を落としています。

なるべく早く、この技術(Gene Drive)による蚊の駆除を実用化すべきだとする意見がある一方で、食物連鎖の末端にある蚊の遺伝子を改造してしまうことで、上位に連なる捕食動物や生態系に予想外のダメージを与えかねません。いったん進化の方向を狂わせた生態系は、元にはまったく戻せなくなるのです。

カット&ペーストの機構をCRISPRに埋め込ませる方法、言い換えると CRISPR に自分自身もコピー&ペーストさせることで、止まることを知らない遺伝子編集マシンが どうしてできるのか?「CRISPR/Cas9を用いたGene driveの威力」というブログに詳しく書いてありました。

Mutagenic chain reaction (MCR)の模式図

そのプロトタイプとなった、Mutagenic chain reaction (MCR) も専門的すぎて素人には解りません。しかし、実験的であるにせよ、現実に起きていることは看過できない事実です。このブログでは、最後にこう結んでいます。

いずれにしても、またしても研究のスピードに社会の認識と制度が追いついて行かない事態を我々は見ることになっている。こうした昆虫の放飼は、虫が国境を容易に超えてしまうので一国だけの規則は役に立たない。現時点ではこうした研究の野外試験にゴーサインを出すための情報と議論が全く不足している。

Kevin Esvelt

CRISPR遺伝子ドライブ(CRISPR gene drive)によって、蚊を一挙に絶滅できる方法を得た人類は、どう判断したら良いのでしょう?ハーバード大のケヴィン・エスヴェルト(Kevin Esvelt)は、以下のように提唱しています。

遺伝子ドライブ技術の無責任な発展に対する最終的なセーフガードとして、初期の介入は政府と非営利組織によってのみ開発されるようにすることです。
安全性テストの設計と結果を歪ませるような、財政的インセンティブの可能性や、開発と意思決定を利益の動機から守ることは、バランスの取れた評価を促すでしょう。

要するに、技術開発のための既存のモデルでは、広く知られた効果を持つ技術では不十分です。
早期の議論、透明性ある研究、慎重な保護措置、及びコミュニティ指導で、生態学的技術に適した科学的発展の反応的モデルを構築することで、できるのです。
CRISPR遺伝子ドライブによって、命を救う(環境保護)可能性を考えれば、それを発展させる方法と、逆に拒否することも決めなければなりません。(Strategies for Responsible Gene Editingより)

また、「Science」誌掲載論文の共著者でアリゾナ州立大学の進化生物学者、ジェームズ・コリンズ(James Collins)によると、この技術が確立される前に、それがもたらす倫理的、法律的、そして社会的な影響を社会全体として考慮する必要があると言っています。「われわれが望まない、予期せぬ結果が生じるかもしれない」と同氏は懸念しています。
ひとたび自然界に放たれると、改変された遺伝子はさらに変異する可能性もあるのです。

20世紀私たちは、量子物理学から原爆と原発を得ました。今度21世紀私たちは、分子生物学からGene Driveを得ることになります。生命を操作することの危うさを感じます。
偉大な発見は、プラスとマイナスを併せ持って、やって来ます。

(モリパパは不勉強かつ門外漢でもあり、このブログ内容に間違ったところがあるかも知れません。遠慮なくご指摘下さい。又後日、訂正させていただくかもしれません)