映画「ベニスに死す」とマーラーとパンデミック

49年前のその昔、1971年に上映された「ベニスに死す」はトーマス・マンの小説「ベニスに死す”Der Tod in Venedig”(独)」が原作です。

主人公アッシェンバッハは50代の音楽家として、ベニスのリド島のリゾートホテルに入るところから始まります。

映画ではコレラに冒されたベニスが舞台となって、暗い映像に包まれています。

病気療養のために来たアッシェンバッハは、10代の若い美少年タージオに心を奪われてしまいます。

リド島を離れるつもりが荷物のトラブルで、再びリド島へ帰ることになったアッシェンバッハの嬉しそうな顔。

何かおかしいベニスの様子を執拗に追求するアッシェンバッハに根負けして、ホテル支配人が「ご説明しますこちらへどうぞ」と答える。
ベニスの住民は観光客で生活しているからです。観光客のいないベニスは、寒々とした冬より惨めです。」

今も昔も変わりません。そこには、生活者の本音があります。

混沌とせん妄の中で、生への執着と死への恐怖が行き来し、死が忍び寄って来ます。フロイトの言う”生の本能エロス” と”死の本能タナトス”の相互対立です。
生と死の心象をつづった暗さをもって、ベニスのリゾートが映し出されています。

そして遂に主人公はペストに冒され、リゾートのベンチの上で、死を受け入れます。これを描いた監督:ルキノ・ビスコンティは、何とマーラーの「交響曲第5番第4楽章アダージェット」を使っています。難しい曲を使ってますが、ふさわしい。

映画「ベニスに死す」での「交響曲第5番」は、マーラー・ブームの火付け役となりました。第4楽章アダージェットは至宝です。
主人公アッシェンバッハは、グスタフ・マーラー(1860年~1911年)をモデルにしたものだと語られるようなりました。

「交響曲第5番」はグスタフ・マーラー円熟期の作品です。

マーラーがちょうど42歳、1902年3月に20歳も年下の23歳のアルマ・シントラーと電撃結婚した頃の作品です。

南オーストリアのヴェルター湖畔の山荘で1902年夏に完成させたものです。

妻となったアルマ

 

10月には長女が誕生しています。この曲は愛妻「アルマへのラヴレター」と言われています。
「アダージェット」とは非常に遅くという意味です。静謐感あふれる美しい楽章です。別名「愛の楽章」と呼ばれています。

マーラーの作品は難解です。人生の「生と死」をテーマにした曲が多くあります。それは、目に見えないペストの脅威でもあるかのようです。

病棟で治療を受けるスペインかぜに罹患した陸軍基地(カンザス州)の兵士

映画ではペストに冒されたベニスが舞台になっていますが、実際は、第一次世界大戦(1914年7月~1918年11月)のあと猛威を奮ったスペイン風邪だと思われます。

戦死者(800万人)より遥かに多くの人がスペイン風邪で命を落としました。ヨーロッパでは少なくとも2,000万人が死亡したと伝えられています。
世界的なパンデミックとなり5000万~1億の死者が出たと推測されています。

世界は今、未曾有の新型コロナ(COVID-19)災禍に見舞われています。未だに収まる気配がありません。いつかは必ず収束するのでしょうが、それまで生き延びなきゃなりません。

この新型コロナ災禍が終わったあと、もし誰かが小説を書き、映画を制作するようなことがあったら、その時はマーラーの交響曲第2番”復活”を使って欲しい。

第5楽章の歌詞はこんな具合に「生と死」を見つめて歌い上げていきます。では、1時間12分辺りから視聴してみて下さい。

仏法で言うところの「起は是れ法性の起・滅は是れ法性の滅」(生死一大事血脈抄 1,337㌻)に通じたところがあるように思うのです。
生命(いのち)の不思議さ、生命の素晴しさを歌い上げています。

理屈っぽさが昂じて、マーラーが好きになって来たみたいです。

 

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