日銀バブルによるパラダイム・シフト

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異次元・金融緩和の開始時、ETF買い入れは年1兆円ほどでした。

それが2014年10月の追加緩和で3兆円になり、更に2016年7月には年6兆円に急拡大しました。
その結果日銀のETF保有額は十数倍に膨れ上がり、2018年7月には20兆円を超えてます。時価総額では東証一部全体の4%前後に達するものです。

景気や企業業績に関係なく「中央銀行が株を買っているぞ」といったアナウンスだけで、株価は実力以上に押し上げられます。
2017年夏ごろエコノミストはすでに「日経平均株価が 2,000~3,000円ほど押し上げられている」との試算していました。

そもそも、ETF購入はリーマンショック後の景気刺激策として2010年10月に始め、東日本大震災やデフレなどの悪影響も重なり、最終的に年最大4500億円まで拡大させました。
金融緩和の手立てが乏しいなかで、金融不安やリーマンショックへの対抗手段として、ETF購入が導入されたのです。それでも導入当初から株価をゆがめるとの批判がありました。

ところが黒田総裁が就任後、世界経済が緩やかに回復し始めて、日本の景気指標も改善するなかでも、ETF購入量は飛躍的に増やされてきました。中央銀行が株式を買いまくるのは、かつては禁じ手だったのです。世界でも他に類例を見ないほどです。

黒田総裁は 2%の物価目標のためなら「何でもやる」と言っています。特にマイナス金利政策の評判は悪く、根深い疑心暗鬼によって巨額の国債が買い続けられています。
もう打てる策は乏しい筈ですが「いまの日銀なら何をやりだすかわからない」といった警戒心が関係先に拡がっています。

日銀の国債保有割合が発行額の4割を超えたことは金融史上初めてのことです。

マイナス金利の導入で長期金利が-0.3%まで低下すると、80兆円も国債を買わなくても低く抑えられると日銀は目論んだのでしょう。日銀の国債買い入れ額を2017年40兆円にペース半減し、80兆円が目処の金融政策が益々分かりづらくなって来ています。

そもそも景気とは人々の気分の高揚であります。気分の高揚が、投資や消費を活発化させるのです。景気は気分です。

日銀の金融緩和の「出口」は二つの作業が中心になると言われています。一つは膨らみきった日銀の資産を減らす「資産縮小」で、もう一つは「利上げ」です。今や日銀の保有資産は、550兆円を超え、GDPを上回る規模に達しているのです。
この資産の大部分は国債ですが、この資産を果たしてどのように縮小するつもりなのでしょうか?

国債はいずれ満期が来れば償還されます。現在は償還を迎えた分をそっくりそのまま新しい国債に買い換えています。

これを辞めれば徐々に国債保有高を減らすことは出来ます。現在の長期国債残存期間は平均7年程度ですので、国債市場の価格下落を招かないようソフトランディングするには、途方もなく長い歳月をかけなければなりません。

一方、満期を迎えることのないETFを減らすには、売却しか方法がありません。保有量が20兆円を超えると、これを徐々に売却するのは至難の技になります。
今も約6兆円の買い入れペースを緩めることさえ苦戦してるほどですから、神経質な株式市場を相手に、混乱なく売却するのは至難の技です。

膨らむ日銀 債務超過の足音、描けぬ出口戦略 (2018/6/7)より

さて、日銀の資本はたった1億円です。準備金や引当金を足し合わせた自己資本残高は2018年3月末で8.2兆円です。

日銀は、将来財務悪化に備えて2015年度から年数千億の引当金を積み増し続けてきました。
それでも保有資産を膨らませたまま金利を引き上げてしまうと自己資本がマイナスとなり債務超過に陥ることになります。

日銀の財務悪化を心配する声に対し、黒田総裁はこう豪語しています。

中央銀行は継続的に通貨発行権益が発生する立場にある。長い目で見れば必ず収益が確保できる仕組みになっているので、短期的な収益の振れが有っても、そのことで中央銀行や通貨の信認が毀損されることはないと思う。(2017年6月16日の記者会見)

確かに日銀には通貨発行権益があります。1万円札を刷れるのは中央銀行の日銀だけです。1万円札の製造原価は約20円ほどだといわれています。ですから\9,980は粗利となり、これを通貨発行益(シニョリッジ seigniorage)と言います。

誰も負担せずにおカネが空から降ってくる?!(Caito/PIXTA)
誰も負担せずにおカネが空から降ってくる?! これがヘリコプターマネー(Caito/PIXTA)

ヘリコプター・マネーといえども、何かを買った対価として通貨を発行しなければなりません。
何を買うか?それは国債です。
ところが国債を買った代金は日銀の当座預金口座に準備金として支払われます。
日銀当座預金に積まれた状態ではマネタリーベースであって「おカネのもと」が増えただけで、マネーストック「おカネそのもの」ではないので、経済活動に影響を与えることになりません。

一般の銀行では、日銀の当座預金を引き出す必要があるような優良な貸出先がないために、超過準備金として預けっぱなしになってしまいます。超過準備金が積み上がるのを、通称「ブタ積み」と言うそうです。(ブタとは花札用語で価値の無いこと)

「ブタ積み」した超過準備金に対しても、日銀は「付利」即ち利息を支払わなければなりません。この付利と国債利回りが逆ザヤになれると、通貨発行益(シニョリッジ)さえマイナスとなりコスト化してしまいます。当座預金が増えれば増えるほどコストが嵩み、通貨発行益(シニョリッジ)は減少してしまいます。

付利を抑えるためにも、ゼロ金利政策は有効です。
2016年1月、日銀はマイナス金利を導入して以来、超低金利政策を継続しなければならなくなりました。
自ら2%の物価目標(インフレ率)を掲げた黒田日銀は、皮肉なことにゼロ金利政策を取らなければ立ち行かなくなってるのです。

中央銀行が債務超過に陥るという異例な事態を、市場が冷静に受け止めるかどうか分かりません。日本の円や国債が信認を失い投げ売りされ、暴落を誘引するリスクになるのです。

(次ページに続く)

 

 

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