グローバル・コモンズとは、地球規模での公共財とでも言ったら良いのでしょうか? 先日「NHK時事公論2022.06.06グローバル・コモン」(石井菜穂子 東大教授の公演)を視聴し、とても印象に残った。
私たちホモ・サピエンスは、誕生してから20万年、いくたびかの氷河期を生き延びてきましたが、12,000年前に気候が温暖なところで安定し、農耕ができるようになってはじめて、文明を築くことができました。人類文明は安定的な地球環境の賜物なのです。
書き起こしが凄い!「有史以前の地球環境がいま崩れ始めた。」と言う。プラネタリー・バウンダリーと呼ばれる地球システムのドメイン(領域)が今や取り返しがつかない領域にあると言います。
このまま方向転換されなければ、地球システムの安定性は一層損なわれ、灼熱地獄や海面上昇、数知れない生物の絶命、そして食糧調達の困難、といったスパイラルを、止めることができなくなります。
「ぼーっと生きてんじゃねーよ」と言われそうな警告です。しかしそれは、注意深い眼で観察しないければ判らないことです。
2021年イタリア南部シチリア島では8月11日、48.8℃を観測。
8月15日ギリシャでの山火事。
北アフリカのチュニジアの首都チュニスでは8月10日、49 ℃を観測し過去最高を更新した。
これは地上の空気に「ふた」をして気温を上昇させる「ヒートドーム」と呼ばれる現象だそうです。
地球温暖化によって最初に沈みゆく悲劇の国と言われている南太平洋のツバルでは「キングタイド」(1-3月の満潮の水位)と呼ばれる潮位が上昇している。
馴染みなあるニューカレドニアのアンスバタ・ビーチでも、海面が上昇して昔の遠浅のビーチがなくなってしまったという。
波がココナッツの木の根元を洗い流しているそうです。
気温変化は、身近なところにも起こっている。日本でも昔は32℃を超えたらニュースになった。今では猛暑日とされるだけだし、雨もただ事ではない。昔はこんな線上降水帯などといった豪雨はなかった。
猶予はあと10年、事態はそれほど切迫しています。
科学からのメッセージが、これほでど明白になっているにもかかわらず、温暖化や生物多様性の喪失には、歯止めがかかりません。人類は自らの手で、繁栄の礎である安定的な地球環境を壊しつつあります。
これを人類共有の資産として「グローバル・コモンズ」と呼びましょう。
グローバル・コモンズが損なわれつつあるのは確かなようです。ウクライナ侵略戦争で天然ガスの供給に支障が出るでけでなく、小麦の供給に支障が出ると世界の食糧危機を招く時代なのです。
17世紀の大航海時代の延長線で、呑気に考えていたら取り返しがつかない時代になっています。豊かな国や地域に暮らす人々には大した問題ではなくても、貧困な国や地域では危機的な状態となります。
われわれ日本でも、エネルギーも食糧の殆どが海外に依存した暮らしになっています。世界中が相互に依存したシステムになってグローバル化しています。
富める国の贅沢は、貧しい国の貧困を助長する構造になっています。大国の横暴が小国を蹂躙する構造になっています。
それは富める大国が貧しい小国をに環境負荷を負わせていることに等しいことでもあります。
先進国で肥満や食品ロスの問題がある一方で、後進国で飢餓や栄養失調が問題になっているのです。
ウクライナ情勢がさらけ出した、国際協力の機能不全と相互不信が渦巻くなかで、経済システム転換をすすめること、グローバル・コモンズを守ろうとすることは、大変に困難なことです。しかし、こうした危機にあっても、私たちには、人類の叡智を振り絞り、国際協力を強化して、一国や一企業では果たし得ない、グローバル・コモンズを守る責任があります。
トランプ政権の時代不法移民取り締まりのためにメキシコとアメリカの国境沿いの分離壁(Trump Wall)を作るような行為にでました。
EUでのシリア難民受け入れ拒否は、ヨーロッパのイスラム化の阻止を主張する人々が中心になり、ヨーロッパの右傾化を招きました。
そして今、世界はコロナ禍に苦しんでいます。
コロナ禍からの回復は、過去への回復ではなく、持続可能なシステムへの転換であるべきです。それは、自然資本の価値づけや循環型経済の推進などを通じ、人類が壊しつつある地球環境の回復、すなわちグリーン・リカバリーを進めることに他ならないと考えます。
グローバル・コモンズの問題の結論は、グリーン・リカバリーだけに留まりません。政治、経済、環境などすべてが、国際秩序(Global Order)の問題を解決することにつながっています。
グローバル・コモンズに目をつぶって過ごせなくなる時代に我々は住んでいます。だから小さな声でも、声を挙げることが大切な時代になっているのです。